松阪駅の西側、市営駐車場が広がる一帯が大きく変わろうとしています。
2026年8月、松阪市は「松阪駅西地区民間施設整備事業」の募集要項を公表し、民間事業者の選定が動き出しました。ホテルなどの商業施設は誘致対象となる一方、マンションは建てられないことが制度として決まっています。
公共施設の供用は2030年、民間施設の完成は2031年度が目標です。この記事では、市が公表した資料をもとに、駅西に何が建つのかを整理します。
計画地はどこ?
松阪駅の西側、松阪市中町・京町などにまたがる約1.1ヘクタール(約1万1,000平方メートル)の市有地です。線路沿いに約275メートル、細長く広がっています。
現在の姿は、大部分が市営「松阪駅前駐車場」。報道によれば約190台分の駐車場と、観光案内所、松阪駅交番、公衆便所が建っています。
駅利用者にとって身近な市営駐車場が事業用地に含まれるため、整備にともなう駐車場の扱いは気になるところです。計画では、駐車場は民間事業者または市が整備する想定となっています。
ホテルは残り、マンションは対象外に
では、駅西には何が建つのでしょうか。その答えの土台になっているのが、松阪市が2026年2月にまとめた「松阪駅西地区施設整備基本方針」です。
市はもともと2019年に基本構想を立てていましたが、その後のコロナ禍や建設費の高騰で状況が変わりました。そこで改めて、検証し直したのがこの基本方針です。
今回の事業者公募も、ここで示された方針に沿って進められています。
検証の結果、当初の構想にあった機能は次のように取捨選択されました。
- 【滞在ゾーン】行政ゾーンと一体で行政が整備。屋内だけでなく屋外空間も確保
- 収益を生む場所ではなく、民間の整備意向は低いと評価
- 【行政窓口ゾーン】窓口の必要性は低いと判断。交番・観光案内所等は行政が再整備し、物産館も移転を想定
- 行政施設との合築の可能性は低いと評価
- 【ホール等】様々な用途に活用可能な会議室を行政が整備
- 民間による独立採算では難しいと評価
- 【ホテル等】市場性ありと判断され、民間事業者を募集
どんなホテルが建つのか・・・基本方針では「バンケットの併設は市場性が低いと評価」されているため、結婚式場や大規模な宴会場を備えたホテルは成り立ちにくく、宿泊機能を中心としたホテルが想定されています。
- 【マンション】導入機能の対象外とする
- 定期借地権付きマンション整備の可能性は低いと評価
- 【テナントゾーン】民間事業者を募集
- コンビニエンスストア等は市場性ありと評価
- 【駐車場】民間による運営の可能性も想定
- 事業者に運営意向はあると評価
ホテルについては「観光客等の増加により需要は想定される」としつつ、駅周辺には宿泊特化型のホテルが多いという現地状況も併記されています。市場性ありと判断され、民間事業者の募集対象として残りました。
一方でマンションは対象外となりました。基本方針は「駅周辺に分譲マンションが立地している」ことを現地状況として挙げています。松阪駅周辺では民間の分譲マンション計画がすでに動いており、市有地に定期借地権付きで整備するニーズは限定的だと判断されたものと読み取れます。
行政窓口ゾーンが縮小された点も見逃せません。「デジタル化が進み窓口は縮小傾向」という社会情勢を踏まえたもので、当初の構想にあった行政窓口機能は、老朽化した交番・観光案内所・公衆便所・物産館の再整備へと置き換わりました。
土地利用のエリア区分|「公共」と「民間」に分かれた
駅西の計画でまず押さえておきたいのが、公共施設と民間施設を別々に建てるという方針です。
市は基本方針をまとめる過程で、公共と民間を1つの建物にまとめる案と、別々の建物にする案を比べました。民間事業者へのヒアリングでは別々に建てる案を望む声が多く、市はこちらを採用しています。
これにあわせて、計画地は「公共施設エリア」と「民間施設エリア」の2つに分けられました。そのうえで、民間施設エリアについては、2026年8月に事業者の公募が始まりました。これが「松阪駅西地区民間施設整備事業」です。
公共施設エリア(松阪駅に近い南西側)
松阪市が、松阪市の負担で、公共施設を建てるエリアです。
入るのは観光情報センター、まつさか交流物産館、ホール(会議室)、公衆便所、交番などが予定されています。現在この場所にある観光案内所や交番が老朽化しているため、機能を集約して建て替える形になります。あわせて、駅や商店街からアクセスしやすい屋外広場も整備されます。
このエリアは2026年8月の事業者公募の対象には含まれていません。市の別事業としてすでに設計に入っており、現在の検討状況は後の章で詳しく紹介します。
民間施設エリア(北東側)
選ばれた民間事業者が、自分のお金で、商業施設などを建てるエリアであり、松阪市の負担はゼロです。
市が土地を貸し、事業者がそこに建物を建てて経営します。観光客の誘客や、地域住民・駅利用者の利便性向上につながる施設が想定されており、駐車場もこのエリアに設けられます。何を建てるかは事業者の提案次第ですが、市が定めた条件の範囲内に限られます(この条件は次の章で詳しく見ます)。
2026年8月に事業者を公募したのはこちらのエリアです。土地は売るのではなく、事業用定期借地権という形で30年から50年の間貸し付けます。
なお各エリアを横断する「連絡通路」も想定されており、駅利用者や駐車場利用者が安全・快適に通行できる動線として位置づけられています。
このエリア区分は、2026年2月の基本方針で示されていた区分を、公募の開始にあわせて整理し直したものです。
民間施設エリアはA・Bの2つに分割された
公募にあたって、市は民間施設エリアをさらに2つの区画に分けました。事業者が参入しやすいよう、ひとつあたりの敷地面積を抑える狙いです。
- 【民間施設エリアA】約2,120平方メートル(公共エリアに隣接)
- 【民間施設エリアB】約5,000平方メートル(民間エリアAの隣)
- 【民間部分の合計】約7,570平方メートル(進入路などを含む)
応募する事業者は、エリアAのみ、エリアBのみ、または両方のいずれかを選んで提案できます。大手デベロッパーでなくても手を挙げやすい設計になっており、地元事業者の参入も想定した組み立てと言えます。
エリアAとエリアBの間には「中央道路」が通っています。募集要項によれば、この道路は市が行う開発行為により認定道路として延伸する予定ですが、事業者の提案によって道路を延伸しないことも可能とされています。両エリアをまとめて使いたい事業者にとっては、道路をまたがずに一体で計画できる余地が残されている形です。
現地はいまこうなっている
それぞれのエリアを実際に歩いてみました。
【公共施設エリア】


松阪駅にいちばん近いエリアです。現在は観光案内所と松阪駅交番、公衆便所が建っています。いずれも老朽化が進んでおり、ここに新しい公共施設が建てられる計画です。ホールや物産館も入る予定です。
【民間施設エリアA】

公共施設エリアの隣、中央道路をはさんでエリアBと向かい合う区画です。3つの区画のなかでは最も小さく、その分だけ賃料の基準単価は1平方メートルあたり年1,548円と、エリアBより高く設定されています。駅に近いぶん価値が高いという評価です。
【民間施設エリアB】

駅からいちばん遠い、いちばん広い区画です。約5,000平方メートルとエリアAの2倍以上あり、賃料の基準単価は1平方メートルあたり年1,329円。まとまった敷地が必要な施設を想定するなら、こちらが候補になります。
3つのエリアはいずれも、現在は市営「松阪駅前駐車場」として使われている一帯です。
民間施設エリアに何を建ててよくて、何がダメなのか
では、選ばれた事業者はここに何を建てられるのでしょうか。
市は提案価格だけでなく、民間ならではの創意工夫やノウハウを生かした事業計画を総合的に評価して事業者を選定する方針です。そのうえで、募集要項とあわせて公表された「要求水準書」に、建ててよいものとダメなものが具体的に書かれています。
用途は自由提案。ただし4つの機能を考慮
民間施設の用途は事業者による自由提案が基本です。ただし松阪駅に近接する駅前市有地という特性を踏まえ、次の機能を有する施設となるよう考慮することが求められています。
- 【にぎわい創出】駅利用者が気軽に来訪・立ち寄りできる
- 【集客】継続的な来訪を促し、駅前周辺地域の利用活性化を図る
- 【滞在】来訪者が居心地よく待ち時間を過ごせる
- 【生活利便】日常生活に必要なモノ・サービスを提供し、市民の利便性向上に寄与する
禁止されている用途
一方で、導入してはいけない用途も明記されています。特に重要なのが次の2点です。
- 主たる用途が居住の用に供する施設(=マンションなどの住宅系)
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する性風俗関連特殊営業の施設
このほか、騒音や悪臭などで周囲に迷惑を及ぼす用途、公序良俗に反する用途、反社会的勢力による利用なども禁止されています。
先に見た基本方針の段階では、マンションは「導入機能の対象外」とされていました。要求水準書はさらに踏み込み、住宅系の用途そのものを禁止しています。駅西にマンションが建つ可能性は、制度上なくなったと言えます。
高さ制限はなし
民間施設エリアの用途地域は商業地域が中心で、一部が準工業地域です。高さ制限は指定されていません。容積率が最大500%のエリアもあるため、事業者の提案次第では相応の規模の建物が可能になります。
事業期間は30年から50年の間で事業者が提案する形で、期間の長短は評価対象外とされています。工事の着工は2028年4月以降の見込みです。
公共施設エリアは今どこまで決まっている?
民間施設エリアは事業者の公募が始まりましたが、公共施設エリアのほうはまだ具体的な設計は決まっていません。今まさに設計中の段階です。
現時点で公表されているのは、施設の「器」の条件までです。
- 【施設名称】(仮称)松阪駅西地区公共施設
- 【施設用途】文化・交流・公益施設など
- 【敷地面積】約2,500平方メートル
- 【高さ制限】なし
入る機能は交番、観光案内所、まつさか交流物産館、ホール、公衆便所など。基本方針では想定の延床面積も示されており、合計するとおよそ720〜920平方メートルです。大規模な公共施設というより、既存機能の集約と再整備が中心であることがわかります。
ただし建物の階数や配置、デザイン、各室の詳細はこれから決まります。市は整備にあたって、約318平方メートルの民間用地を約2,600万円で買収する計画も明らかにしています。
設計を担当する事業者は2026年7月に決定済みで、市民ワークショップを開きながら中身を詰めていく予定です。ワークショップは2026年8月から12月にかけて3回程度、10代から70代までの市民30名程度が参加する形で行われます。
基本設計がまとまるのは2027年3月頃の見込みです。民間の優先交渉権者が決まるのが2027年2月中旬ですから、2027年の春に駅西の全体像が一気に見えてくることになります。
事業全体のスケジュール
まず、基本方針に示された年度単位の大枠は次のとおりです。
- 【2025年度(令和7年度)】整備基本方針の策定 → 完了
- 【2026年度(令和8年度)】民間事業者の公募・選定・事業契約の締結、基本計画・設計 → 進行中
- 【2027年度(令和9年度)】設計
- 【2028〜2029年度(令和10〜11年度)】建設工事
- 【2030年度(令和12年度)】完成・供用
そのうえで、民間事業者の募集開始にともない、選定の日程が具体的な日付で示されました。
民間事業者の選定日程
優先交渉権者の選定は公募型プロポーザル方式で行われます。主な日程は次のとおりです。
- 【2026年8月19日】募集要項等の公表(完了)
- 【2026年8月25日】事業者説明会・現地説明会(完了)。4者が参加
- 【2026年10月19日〜23日】参加表明書の受付
- 【2026年12月4日〜10日】事業提案書の受付
- 【2027年2月中旬】優先交渉権者の決定
- 【2027年3月】基本協定の締結
- 【2028年3月】事業用定期借地権設定契約の締結
8月25日の現地説明会には4者が参加し、市営松阪駅前駐車場となっているエリアA・Bを歩いて見学しました。ただし市は、参加者が個人事業主か法人か、市内か市外の事業者かといった属性は公表していません。
つまり、駅西に何が建つのかが具体的に見えてくるのは2027年2月中旬ということになります。事業提案書の受付が2026年12月上旬なので、その頃には応募事業者の動きが表に出てくる可能性もあります。
完成時期は公共と民間で1年ずれる
供用開始の時期は、公共エリアと民間施設で異なります。
- 【公共エリア】令和12年(2030年)の供用を見込む
- 【民間施設】令和13年度(2031年度)までの完成を目指す
先に公共エリアが立ち上がり、民間施設が後を追う形です。
これまでの経緯|実は二度目の挑戦
駅西地区で再開発が計画されたのは、今回が初めてではありません。
平成20年(2008年)には、21階建てのマンションと市の総合センターを建てる総事業費約99億円の「松阪駅西地区市街地再開発事業」が都市計画決定されていました。しかし建設資材の高騰で事業収支が悪化し、市が補助金の支出を拒否。計画は事実上白紙となり、再開発準備組合は破産して解散しています。
今回の計画で公共と民間の棟を分ける方式が採られたことや、市民ワークショップが繰り返し開かれていることは、この経験を踏まえたものと見ることができます。
【「再開発」という言葉について】
この記事では「再開発」を「駅前をつくり直す」という一般的な意味で使っています。
法律でいう「再開発」は、土地の持ち主たちが土地を出し合ってビルを建て、元の土地の代わりにビルの部屋をもらう仕組みの事業のことです。2008年に白紙になった前回の計画はこれにあたりますが、今回は市が自分の土地を使って進める計画で、法律上の再開発ではありません。
今後の注目ポイント
松阪駅西地区の再開発を追ううえで、押さえておきたいポイントを整理します。
- 【優先交渉権者の決定】2027年2月中旬。誰が選ばれるかで施設の性格が決まる
- 【事業者の顔ぶれ】営利事業ゾーンにホテルが入るのか、テナントに何が来るのか
- 【応募事業者数】現地説明会には4者が参加。参加表明書の受付は2026年10月19日から
- 【建設費の動向】資材・人件費の高騰が続けば計画の再調整もありうる
- 【交番・観光案内所の移転時期】老朽化が進んでおり、現在地からの移設が前提
松阪駅西は公共エリアが2030年、民間施設が2031年度までの完成を目指して着実に段階を踏んでいます。今後も続報を追っていきます。
まとめ
- 松阪駅西地区は総面積約1万1,000平方メートルの市有地。線路沿いに約275メートル細長く広がり、大部分は市営駐車場
- 駅西の再開発は二度目の挑戦。前回は21階建てのマンションと総合センターを建てる99億円規模の計画だったが、市が補助金支出を拒否し、準備組合は2010年に破産・解散。計画は白紙に戻った
- ホテルは市場性ありとして残り、マンションは導入機能の対象外に
- 民間エリアはA(約2,120平方メートル)とB(約5,000平方メートル)に分けて募集。参入しやすさを重視した設計
- 用途は自由提案だが、要求水準書は「主たる用途が居住の用に供する施設」を禁止。マンションの可能性は制度上消えた
- 高さ制限は指定なし、事業期間は30〜50年で事業者の提案による
- 完成目標は公共エリアが2030年、民間施設が2031年度まで
参考
- 松阪市「松阪駅西地区施設整備基本方針」(2026年2月策定)
- 松阪市「松阪駅西地区民間施設整備事業 要求水準書」(2026年8月)
- 松阪市「松阪駅西地区民間施設整備事業 事業提案募集要項」(2026年8月)
- 伊勢新聞(2026年8月19日)松阪駅西の民間事業者募集に関する報道
- 松阪市議会 会議録
- 夕刊三重(2026年8月)現地説明会に関する報道
- 中日新聞(2026年7月)募集要項案の公表に関する報道


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