津駅前は、まだ構想段階ながら、東口に建てる複合ビルに住居を組み込む案も出ています。一方、松阪駅西の再開発ではマンションを禁止すると決定。同じ駅前の再開発ですが、それぞれ違う方向を向いています。
この記事では、三重県の2大駅前を、5つの視点で比べます。
そもそも何を整備するのか
まず、それぞれが何をつくろうとしているのかを整理します。
【松阪駅西】
- <対象> 松阪駅西側の市有地、約1.1ヘクタール(約1万1,000平方メートル)
- <つくるもの> 公共施設(交番・観光案内所・物産館・ホール等)、民間施設、屋外広場、駐車場
- <現況> 大部分が市営「松阪駅前駐車場」。報道によれば約190台分
- <公共施設の規模> 延床は合計およそ720〜920平方メートル。既存機能の集約と再整備が中心
▶ 松阪駅西の整備内容はこちらで詳しくまとめています↓

【津駅前】
- <対象> 津駅を中心とした東西約27ヘクタールの範囲
- <つくるもの> 東口の交通ターミナル(バスタ)と複合建築物、東西の駅前広場再編、東西自由通路、ペデストリアンデッキ、駐輪場の再整備
- <現況> 駅前広場、バス・タクシー乗降場など
対象範囲の性質が異なる点に注意が必要です。松阪の約1.1ヘクタールは建物を建てる事業用地そのもの、津の約27ヘクタールは道路や広場を含む整備の対象範囲です。単純に面積を比べられるものではありません。
▶ 津駅前の整備内容はこちらで詳しくまとめています↓

違い①|マンションを建てるか、建てないか
最もはっきりと分かれたのが、住まいの扱いです。
松阪は、事業者が建てる民間施設エリアの用途からマンションを排除しました。
基本方針の段階で、定期借地権付きマンション整備の可能性は低いとして導入機能の対象外とされ、さらに要求水準書では「主たる用途が居住の用に供する施設」が禁止用途として明記されました。制度として住宅系の用途が入れないようになっています。
津は、東口に建てる複合建築物の用途に居住も選択肢として入れています。
津市のビジョンでは、東口の交通ターミナルへの複合建築物として商業、宿泊、業務、居住等の機能導入が想定されています。加えて東口エリアには市街地再開発の促進が位置づけられ、周辺の土地利用を促進するための再開発事業の事業化が課題として挙げられています。ただしこれはビジョン段階で示された方向性であり、居住機能の導入が確定しているわけではありません。
同じ「駅前がさみしい」という出発点から、松阪は住まない駅前と決め、津は住む駅前も選択肢に残したことになります。
松阪市の基本方針は、現地状況として「駅周辺に分譲マンションが立地している」ことを挙げたうえで、定期借地権付きマンションを整備する可能性は低いと評価していました。一方の津市は、東口エリアに市街地再開発の促進を位置づけ、中心市街地に住む人を増やす方向を示しています。
違い②|横に並べるか、縦に積むか
建物の建て方も対照的です。
松阪は、公共施設の建物と民間施設の建物を「横に並べる」方式です。
1棟にまとめる施設一体案と、別々に建てる施設分離案を比較した結果、分離案が採用されました。市が民間事業者にヒアリングしたところ、一体案より分離案を希望する声が多数だったことが理由のひとつです。市は分離案のメリットとして、設計や使い方の自由度、補助金・交付金の活用、トータルコストの縮減、事業者が参画しやすいことを挙げています。
津は、バスタ(交通ターミナル)の上に複合ビルを「縦に積む」構想です。
東口の交通ターミナルの上部空間に、道路法に基づく立体道路制度を使って複合建築物を載せる構想が検討されています。バスタと複合ビルを別々に建てるのではなく、ターミナルの上にビルを載せることで、用地が限られる駅前で床面積を確保する発想です。
なお松阪の民間施設エリアにも高さ制限は指定されておらず、容積率が最大500%の区域もあります。高く建てられないから横に並べたわけではなく、公共と民間の建物を分けるという方針が先にあった形です。
違い③|既に動いた津、これから動く松阪
意外に思われるかもしれませんが、工事が先に始まったのは津です。
東口(バスタ・複合ビル)の中身はまだ固まっていない一方、西口は「駅前広場の再編」という整備内容が早く固まったため、2026年8月に着工できました。
松阪はまだ着工前ですが、公共・民間とも整備する中身(施設構成・用途)はすでに固まっており、事業者選定と設計を経て2028年4月以降に着工する見通しです。
違い④|誰が主導するのか
松阪は市が主導します。
基本方針では、民間事業者が参入しなくても公共エリアは市が整備する立場が明確です。観光案内所や交番の老朽化が進んでおり、公共施設の再整備そのものに必要性があるためです。
津は国・県・市の三者連携が前提です。
バスタは国、駅前通りへのほこみち導入は県道のため県、駅前広場や自由通路は市と、それぞれ主体が異なります。津市長が県政要望で計108項目を求めたのも、この構造の表れです。前葉市長は鉄道事業者との協議も加速化させると述べており、JRや近鉄との調整も控えています。
関係者が多いほど調整に時間がかかるのは避けられません。ただし、その分だけ実現したときの規模は大きくなります。
違い⑤|誰がお金を出すのか
主導する主体が違えば、お金の出どころも変わります。
松阪は、民間の建物に市のお金を入れません。
募集要項は「本事業の実施にあたり必要となる費用は全て事業者の負担とする」と明記しています。市は土地を売らず、事業用定期借地権で30年から50年貸し付け、地代を受け取る立場です。基準となる地代は1平方メートルあたり年1,548円(エリアA)と1,329円(エリアB)で、これを下回る提案は失格とされています。
ただし市の負担がないわけではありません。交番や観光案内所が入る公共施設は市が整備し、民間施設エリアについても、貸し出せる状態にするための造成工事は市が行う予定です。
津は費用の分担がまだ固まっていません。
バスタ本体は国、ほこみちの対象となる駅前通りは県道のため県、駅前広場や自由通路は市と主体が分かれています。バスタの整備方針は国が検討に入った段階で、一方、上部に載る複合建築物は官民連携による整備が想定されています。
土地を貸して地代を得る松阪と、国の事業として費用の枠組みを組み立てる津。駅前を変えるための原資の考え方が、根本的に異なっています。
なお松阪が民間の費用負担を徹底している背景には、20年前に頓挫した99億円の再開発計画の経験があります。
▶ 20年前の再開発計画の記録を記事にしています↓

完成はいつになるのか
松阪駅西
- 【公共エリア】2030年の供用を見込む
- 【民間施設】2031年度までの完成を目指す
- 【現在】事業者選定中。優先交渉権者の決定は2027年2月中旬
津駅前
- 【西口駅前広場】2028年3月までに工事完了、2028年度の供用開始予定
- 【東口・バスタ本体】未定。国が整備方針を検討中
- 【東口・複合建築物】未定。市がサウンディング調査を終え、事業手法を検討中
- 【現在】西口は工事中。東口は国・市それぞれが検討を進めている段階
西口だけを見れば津が先行し、建物を含めた全体像では松阪が先に形になる見通しです。2027年2月に松阪の優先交渉権者が決まり、2028年度には津の西口が供用を開始します。どちらの駅前も、数年のうちに姿を変えていきます。
まとめ
- 松阪はマンションを禁止すると決定。津はまだ構想段階だが、ビジョンで「居住」も複合建築物の用途の選択肢に挙げている
- 松阪は公共棟と民間棟を横に分ける施設分離案、津はバスタ上部に立体道路制度で積む構想
- 工事が先に始まったのは津の西口(2026年8月着手)。松阪の着工は2028年4月以降
- 松阪は市が主導、津は国・県・市の三者連携
- 松阪は民間施設の費用を全額事業者に負担させ、市は地代を受け取る側。津は費用分担がこれから
- 完成目標は松阪が2030年・2031年度、津は西口が2028年度、東口は未定
参考
- 松阪市「松阪駅西地区施設整備基本方針」(2026年2月策定)
- 松阪市「松阪駅西地区民間施設整備事業 事業提案募集要項」(2026年8月)
- 松阪市「松阪駅西地区民間施設整備事業 要求水準書」(2026年8月)
- 津市「津駅周辺基盤整備の方向性(ビジョン)」(2025年7月策定)
- 津市「津駅東口交通ターミナル上部空間活用に関するサウンディング型市場調査」
- 伊勢新聞(2026年8月25日)津駅周辺整備に関する県政要望の報道
- 中日新聞(2026年6月)津駅西口駅前広場の整備に関する報道


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