99億円の計画はなぜ白紙に?松阪駅西・2008年の記録

2008年2月、松阪駅西に21階建てのマンションを建てる計画が都市計画決定されました。総事業費は約99億円。ところが同じ年の11月、この計画は事実上白紙になります。事業を進めていた準備組合は破産して解散し、その後、市は裁判でも争うことになりました。

なぜ中止になったのか。誰がどこで判断したのか。

この記事では、松阪市議会の会議録をもとに、計画の始まりから2012年の都市計画決定の解除までを時系列で整理します。

▶ 現在進んでいる計画については、こちらの記事でまとめています↓

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目次

マンション、ホテル、公共施設を建てる計画だった

当時の事業名は「松阪駅西地区市街地再開発事業」です。

計画の源流は平成12年(2000年)にさかのぼります。この年に市がまとめた中心市街地商業等活性化基本計画の中に、「松阪駅前地区市街地再開発事業」が位置づけられていました。平成18年(2006年)3月の市議会に調査費が初めて計上され、平成19年(2007年)頃には、国へ事業申請が行われています。

計画されていたのは次の3つの施設です。

  • 【マンション】当初24階建て、市民との意見交換を経て21階建てに変更。商業スペースも併設
  • 【ホテル】民間のホテルとして計画
  • 【保健医療福祉総合センター】市が保健・医療・福祉の拠点として整備する公共施設。再開発ビルの床を市が買い取って取得する

総事業費は当初約94億円。市は総合センターの取得費用として23億5,000万円の債務負担行為の承認を受けていました。

この94億円という数字は、のちに建設資材の高騰を受けて99億6,000万円にふくらみます。この記事のタイトルにある「99億円」は、その見直し後の金額です。

当初は平成19年8〜9月ごろの都市計画決定が見込まれていましたが、実際に決定されたのは平成20年(2008年)2月20日です。

【用語解説】準備組合とは

この事業の主体となったのが「松阪駅西地区市街地再開発準備組合」です。

再開発事業では、地区内の土地・建物の所有者が集まって組合をつくり、事業を進めます。ただし正式な組合(本組合)の設立には多くの手続きが必要なため、まずその前段階として準備組合を組織し、計画づくりや合意形成を行うのが一般的です。

松阪駅西の場合、都市計画決定までは進んだものの、本組合の設立には至りませんでした。つまりこの事業は、準備組合のまま終わったことになります。

計画当初から指摘されていた「不公平」

実は、のちに事業を止めることになる問題は、資材が高騰する前から議会で取り上げられていました。

都市計画決定の前年、平成19年(2007年)6月の市議会で、再開発ビルの床を買い取る価格の差が問題になります。当時の計画では、1平方メートルあたりの価格は次のとおりでした。

  • 【マンション部分(民間事業者が購入)】17万2,000円
  • 【保健医療福祉総合センター(市が購入)】27万円

1平方メートルあたり9万8,000円の差があり、市が割高な価格で買うことになるという指摘です。

市側は、住宅とセンターでは面積の数え方が違うこと、センターは設備を仕上げた状態の価格であること、天井の高さが異なることなどを挙げ、単純には比較できないと説明しました。当時の下村猛市長も、同じ規模の施設を単独で建てれば建築費は30億円を超えるとの試算を示し、再開発のほうが有利だと答弁しています。

この時点では、市は価格差を説明できる範囲のものとしていました。しかし1年後、資材高騰で費用が膨らんだ見直し案を前に、市は負担の偏りを「公平・公正ではない」と判断することになります。

建設資材の高騰が直撃

しかし都市計画決定とほぼ同時期の平成20年2月ごろから、建設資材が急激に高騰します。

準備組合が平成20年7月1日に提出した見直し後の収支計画では、数字が次のように動いていました。

  • 【総事業費】約94億円 → 99億6,000万円(約5億9,000万円の増)
  • 【工事費】75億8,000万円 → 83億3,000万円(約7億5,000万円の増)
  • 【市の補助金】17億2,000万円 → 18億900万円
  • 【総合センター取得価格】23億5,000万円 → 27億1,400万円(約3億6,400万円の増)

市が突きつけた「公平・公正ではない」

ここからが、この事業の分岐点です。

市は提出された収支計画を検証し、平成20年7月の市議会全員協議会で結論を報告しました。収支の計算上は事業が成立する形になっているが、公平・公正かつ適正なものとは考えられない、というものでした。

市が問題視したのは主に2点です。

1点目は、値上がりの負担が偏っていたこと。資材高騰で工事費が上がったにもかかわらず、市が買い取る総合センターの価格は3億6,400万円上がる一方で、マンションの処分見込み額は33億3,000万円から33億4,300万円へとほぼ据え置かれていました。市はそれまで準備組合に対し、マンションと総合センターは平等に扱うよう伝えてきたとしています。

2点目は、その調整が経費と補助金の配分変更で行われた疑いです。市は、従来の配分方法から変更され、住宅とホテルに対して偏った補助金の配分がなされていると指摘しました。

そして市が示した数字が決定的でした。資材高騰による増額分のうち77%が市の負担であり、補助金を加えると94%を公金で負担する計算になる、というものです。

当時の下村猛市長は市議会で、都市計画決定をした以上その実現へ向けて協議を続けるとしながらも、「スケジュール優先という考え方には立っておりません」と答弁しています。準備組合が示した工程表では、平成20年10月に本組合設立認可、平成23年8月に工事完成、平成24年3月に組合解散という予定でした。

補助金の支出拒否から破産へ

その後、市は準備組合に対して確約書(案)を提案します。権利者が一体となって取り組むこと、本組合の設立に協力すること、公平・公正な事業収支計画を作成することなどを求める内容で、議会や市民の不信感を払拭する狙いがありました。

しかし市と準備組合の考え方には隔たりがあり、合意には至りませんでした。本組合がいつ立ち上がるのかも見通せない状況となり、平成20年11月、市は補助金の支出はできないという結論を出します。補助金なしでは事業が成り立たないため、この時点で再開発計画は事実上白紙となりました。

これを受けて準備組合は事業の遂行が不可能と判断し、平成21年1月末で活動を休止します。その後、破産を申し立てるしかないという結論に至りました。清算しようにも、負債と組合の手元資金の差が大きすぎたためです。

破産手続は平成22年4月に終結し、準備組合は解散しました。

組合の解散後も続いた裁判

この事業をめぐる問題は、準備組合の解散では終わりませんでした。

準備組合が活動を止めて間もない平成21年5月1日、この再開発事業に関わっていたコンサルタント会社3社が、松阪市に損害賠償を求めて提訴しました。後年の市議会では、設計費をめぐる裁判だったとも言及されています。

争点になったのは、市が行った補助金の交付決定の取り消しでした。平成23年2月の市議会で、市は主な争点として次の4つを挙げています。

  • 補助金の交付決定を取り消したことが、原告の債権を侵害したことになるのか
  • 市が準備組合に求めた確約書は、本当に必要だったのか
  • 事業の実現は、本当に不可能だったのか
  • 補助金の取り消しは、適法だったのか

つまり裁判では、市が事業を止めた判断そのものが正しかったのかが問われたことになります。市は、自らが行った措置は適正で違法性はないと主張しました。

判決が確定したのは平成23年(2011年)。結果は市の勝訴でした。

そして事業の都市計画決定が正式に解除されたのは、平成24年(2012年)5月24日の都市計画審議会。市議会では、都市計画決定まで進んだ事業が中止になるのは本来あってはならないことだ、との指摘も出ています。

市が残した反省

平成24年6月の市議会で、この事業が中止になった検証がなされているのかと問われた市の都市政策部長は、こう答えています。

事業を進める最初の段階から市民と一緒にどう進めるか話し合い、十分な検討を重ね、その経過について情報開示を行いながら事業推進を図る。そうした反省する点は真摯に受けとめていかなければいけない、と。

今回の計画との違い

同じ場所で、建てるものも、進め方も、お金の出し方も、正反対になりました。

とくに大きいのが、お金の出し方です。

前回は、市が補助金17億2,000万円を出し、そのうえで保健医療福祉総合センターの取得費として23億5,000万円を負担する計画でした(資材高騰後の見直し案では、さらに増額を求められています)。建物の値上がり分を誰が引き受けるのかが最後まで決まらず、計算すると増額分の9割以上が公金という数字が出てきた。それが白紙の直接の引き金になりました。

今回の募集要項は「本事業の実施にあたり必要となる費用は全て事業者の負担とする」と明記しています。設計から建設、運営、そして事業終了時の撤去まで、民間の建物にかかる費用に市の負担はありません。市は土地を貸して地代を受け取る側です。

ただし、市の持ち出しがゼロになったわけではありません。公共施設エリアは今回も市が整備し、費用も市が負担します。民間施設エリアも、貸し出せる状態にするための造成工事(擁壁の設置など)は市が行う予定です。変わったのは、民間の建物そのものの費用まで市が抱え込む構図をやめた点にあります。

建て方も変わりました。公共と民間を1棟にまとめず、あえて別々に建てます。前回は1つの再開発事業の中で公共施設と民間施設の費用が混ざり合い、その配分の公平性が問われました。建物を分ければ、費用も分かれます。

そして住宅です。前回の中心にあったのは21階建てのマンションでした。今回は要求水準書で居住系の用途そのものが禁止されています。

駅西の再開発は「マンションを建てる計画」から「マンションを建てない計画」へ、20年かけて正反対の方向に舵を切ったことになります。

市が平成24年の市議会で述べた「事業を進める最初の段階から市民と一緒に話し合い、経過について情報開示を行う」という反省も、ワークショップを重ねる今回の進め方に反映されていると見ることができます。

時系列まとめ

  • 【2000年】中心市街地商業等活性化基本計画に「松阪駅前地区市街地再開発事業」を位置づけ
  • 【2006年3月】市議会に調査費を初めて計上
  • 【2007年2月】市議会が事業推進を議決し、国へ事業申請
  • 【2007年6月】市議会で、マンションと総合センターの床価格の差が議論に
  • 【2008年2月20日】松阪駅西地区市街地再開発事業の都市計画決定
  • 【2008年2月ごろ〜】建設資材が急激に高騰
  • 【2008年7月1日】準備組合が現状報告書と事業収支計画書を市に提出
  • 【2008年7月】市が「公平・公正かつ適正とは考えられない」と検証結果を市議会に報告
  • 【2008年11月】市が補助金の支出はできないと結論。再開発計画は事実上白紙に
  • 【2009年1月末】準備組合が活動休止
  • 【2009年5月1日】再開発事業に関わったコンサルタント会社3社が、市に損害賠償を求めて提訴
  • 【2010年4月】準備組合の破産手続が終結し解散
  • 【2011年】提訴された裁判は市が勝訴
  • 【2012年5月24日】都市計画審議会で都市計画決定を解除。計画は正式に白紙に

まとめ

  • 前回の計画は21階建てのマンション、ホテル、保健医療福祉総合センターで構成され、総事業費は当初約94億円
  • 建設資材の高騰で総事業費は99億6,000万円に増加
  • 増額分の77%が市の負担、補助金を加えると94%を公金で負担する計算だった
  • 2008年11月に市が補助金支出を拒否し、計画は事実上白紙に
  • 準備組合は2009年1月末に活動休止、2010年4月に破産手続が終結して解散
  • 都市計画決定の解除は2012年5月

参考

  • 松阪市議会 平成19年6月 定例会 会議録(駅西地区再開発に関する一般質問)
  • 松阪市議会 平成20年7月 全員協議会 会議録(松阪駅西地区市街地再開発事業について)
  • 松阪市議会 平成22年2月 定例会 会議録(駅西地区再開発事業の裁判に関する答弁)
  • 松阪市議会 平成23年2月 定例会 会議録(建設水道委員会 委員長報告)
  • 松阪市議会 平成23年9月 定例会 会議録(建設水道委員会 委員長報告)
  • 松阪市議会 平成24年6月 定例会 会議録(中心市街地の活性化への取り組みに関する一般質問)

はなお
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