セントレアへの海上アクセスの歩み―三港の比較と津エアポートラインの今

 かつて三重県内の三港(四日市・津・松阪)は、空港アクセスの夢を託して高速船航路を開設しました。しかし、今も残るのは津エアポートラインだけです。

 本記事では、三港の計画から現在までの歩みを比較し、その背景と課題をまとめます。


目次

三港(四日市・津・松阪)における空港アクセスの歴史

 津エアポートラインは、2005年の中部国際空港(セントレア)開業に合わせて、空港のない三重県からの海上アクセスを確保するために始まりました。当初は四日市、津、松阪、伊勢、志摩の5つの港で航路計画が立てられましたが、事業者の応募がなく、計画自体も実態と合わない楽観的な内容でした。

 そこで、津市長(当時の近藤市長)が両備グループの小嶋氏に相談し、「公設民営」モデルを導入

公設民営とは・・・
公設民営とは、建物や船などの大きなお金がかかる部分は市や国などの行政が用意し、その施設を使って、民間の会社が実際の運営や経営を行うやり方です。
つまり、「施設は行政が用意して、運営はプロの会社がやる」という仕組みです。

 5港の中で唯一現実的だった津市の航路に絞り、両備グループ自らが運営会社として津エアポートライン株式会社を設立しました。

 津エアポートラインは、セントレア開業や愛知万博の影響で開業当初は大盛況となり、その成功を見て四日市市と松阪市も空港アクセス船を運航開始。しかし、どちらも利用者の伸び悩みや経営難で、四日市航路は2008年、松阪航路は2016年に廃止され、現在まで運航を続けているのは津エアポートラインだけです。


三港(四日市・津・松阪)をわかりやすく比較してみた


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港名港の場所(地区)建設費用開業・閉業時期1日平均利用者
【運行継続中】
津なぎさまち
(津エアポートライン)
津市贄崎地区約18億円(事業採択時)2005年2月2005年開業時約1,400人
→コロナ前約820人
→コロナ後2023年は約440人
【廃止】
四日市市浜園旅客ターミナル
四日市市浜園約10億円2006年4月
→2008年10月に廃止
2006年開業時約500人
→2007年約430人
→廃止
【廃止】
松阪港
(ベルライン)
松阪市高須町約10億円2005年2月
→2016年12月廃止
2008年約340人(最多)
→2009年約200人
→2014年約60人
→廃止

三港(四日市・津・松阪)の距離・所要時間を比較してみた

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港名距離(概算)所要時間料金(片道・大人)備考
【運行継続中】
津なぎさまち
(津エアポートライン)
約42km約45分2,980円・現在唯一の運航航路
【廃止】
四日市市浜園旅客ターミナル
約32km約35分1,800円
(廃止当時)
・2008年廃止
【廃止】
松阪港
(ベルライン)
約62km約70分2,700円~2,780円
(廃止当時)
・2009年松阪高速船㈱が破綻したが、運航は津エアポートラインが引継ぎ
・2016年廃止

廃止された四日市市浜園旅客ターミナルはどうなった?

 2008年に航路が廃止された後、ターミナルの建物や設備はすべて撤去され、現在はもう存在していません。跡地は緑地スペースなどとして活用されていますが、旅客ターミナルとしての機能や建物は完全になくなっています。

 下記は過去の様子です。

画像提供:放浪STATION
画像提供:放浪STATION

廃止された松阪港(ベルライン)はどうなった?

 建物を取壊したという記録は出ていないため、まだ、そのまま残っているようです。

 下記は営業していた過去の様子です。

画像提供:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
画像提供:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
画像提供:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター
画像提供:伊勢志摩バリアフリーツアーセンター

【津エアポートライン】開業からの歩みと経営危機

 津エアポートラインは、開業当初こそ空港人気と名古屋万博景気で予想を大きく上回る乗客数となり、初年度から黒字化。しかし、四日市・松阪も独自に航路を開設し、三つ巴の激しい競争に。結果、津市の立地の優位性が証明され、他航路は数年で撤退。津エアポートラインは経営努力で苦境を乗り越え、現在まで運航を継続しています。

【津エアポートライン】フェニックス・カトレア両船体の建造費用と更新課題

 津エアポートラインの主力船「フェニックス」「カトレア」は、2004年に津市が約9億円をかけて建造し、企業に貸し付ける公設民営方式で運用されています(1隻あたり約4.5億円)。

 しかし、20年が経過し、両船体は老朽化。部品の一部は製造中止となり、今後はエンジン本体の交換や新造船の建造が避けられない状況です。現行船の維持コストも年々上昇し、抜本的な更新が急務となっています。


【津エアポートライン】新造船にかかるコストと財源の現実

 現在、資材や人件費が大きく上がっているため、同じくらいの高速船を新しく造ろうとすると、1隻で5億円以上、2隻で10億円を超えることは確実です。コロナの影響で会社の貯金もほとんどなくなっており、市や県、国の助けがどうしても必要な状況です。

 国の「サイクルシップ」補助金を使えば、船を造る費用の3分の1は国が出してくれますが、残りの3分の2以上は地元や運航会社が自分たちで用意しなければなりません。津市はこれからもターミナルの維持や駐車場の費用を負担しつつ、国や県、事業者と協力して、必要なお金を集めて船の運航を続けていくことを目指しています。


まとめ

 津エアポートラインは、現実的な事業計画と「公設民営」モデルで誕生し、幾多の経営危機を乗り越えてきました。四日市・松阪の航路は巨額の投資にもかかわらず短期間で消滅。津市の立地優位性と経営努力が、唯一残る空港アクセス航路を支えています。

 しかし今、フェニックス・カトレア両船体の老朽化と新造船の高額な費用という新たな壁に直面しています。三重県唯一の空港アクセス航路を守るため、今後も官民連携による財源確保と、持続可能な運航体制の構築が不可欠です。


※本記事は、津エアポートライン株式会社社長の回顧、津市議会答弁、三重県・四日市市・松阪市公式資料、各種報道、及び高速船公式情報をもとに作成しています

はなお
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