令和6年10月に行われた、津市初の空家撤去に係る略式代執行について、解説します。
なお、本記事は、記者発表資料、市議会の議事録、工事に係る入札公告などの情報を基に作成しています。
略式代執行とは

空き家問題が深刻化する中、特に危険な状態にある空き家に対して自治体が取る最終手段が「略式代執行」です。
これは、所有者が不明または相続放棄などで所有者が存在しない場合に、周辺住民や通行人に被害が及ぶ恐れが切迫していると判断された特定空家等について、市町村長が空家等対策特別措置法(空家法)第22条第10項に基づき、除却(解体)などの措置を行うものです。
特定空家等とは、放置すれば倒壊など著しく保安上危険となる、または衛生上有害となる状態、適切な管理がされず景観を損なっている状態など、周辺の生活環境に著しい悪影響を及ぼすと認められる空き家を指します
略式代執行に至るまでの経緯
今回の津市の事例では、まず地元自治会から老朽化した空き家について市に相談が寄せられました。
現地調査の結果、屋根の崩落や瓦の落下、外壁材の飛散など、周辺住民にとって危険な状態であることが判明し、特定空家等に認定。市が所有者に対して改善を求める通知を行い、以降も定期的なパトロールを実施してきました。
しかし、所有者が亡くなり、相続人全員が相続を放棄したことで所有者不存在となりました。その後も建物の劣化が進み、倒壊や道路閉塞の危険性が高まったため、市は略式代執行による除却を決断しました。
津市での初事例とその背景
場所
津市で初めて実施された略式代執行の現場は、民家が密集する地域に位置し、外見からは分かりにくいものの、屋根の崩落や内部の朽廃が著しい危険な空き家でした。
解体費用
解体費用は税込み約527万円で、解体業者の決定は一般競争入札で行われました。
この費用のうち、国の空き家対策総合支援事業による補助が最大で2分の1、県の補助が上限25万円受けられます。今回のケースでは、国から約263万円、県から25万円、合計約288万円の補助が見込まれ、市の負担は約239万円となりました。
これらの補助も税金で賄われているため、空き家所有者の無責任な管理が市民全体の負担となっている現状が浮き彫りになっています。
除却後の土地の管理と課題

除却後の土地は所有者が不在となるため、雑草や害虫発生などの新たな管理課題が発生します。
津市では、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法に基づき、裁判所に管理人の選任を申請。今後は選任された管理人が土地の適切な管理や売却を進めることになります。
自治会など地域住民が土地の活用を希望する場合も、今後は管理人との交渉が必要となります。
空き家問題への今後の対応

津市内では、65歳以上の独居高齢者世帯が1万世帯を超え、今後も空き家の増加が懸念されています。
空き家は長期間放置されると資産価値が下がり、売却も困難になる上、解体コストも増加します。所有者が高齢や経済的理由で管理できなくなるケースも多く、行政代執行や略式代執行が「最悪の最終手段」とならないよう、日頃からの適切な管理や早めの対策が重要です。
特定空家等に指定されると、固定資産税の優遇措置が適用されなくなるなど、所有者にとっても大きなデメリットがあります。行政からの助言や指導の段階で適切な管理や処分を行うことで、強制的な除却や罰則を回避することができます。空き家を所有している方は、早めに専門家や自治体に相談し、適切な管理や活用方法を検討することが大切です。
まとめ
略式代執行は、所有者不明や管理放棄された危険な空き家に対し、自治体が住民の安全を守るために取る最終的な措置です。
津市での初事例は、今後全国的にも増加が予想される空き家問題の縮図とも言えます。
解体費用や管理費用は最終的に税金で賄われるため、空き家所有者の責任ある管理が求められます。高齢化や相続放棄の増加により、空き家問題は今後ますます深刻化する可能性があります。
空き家を所有する方は、早めの管理や相談を心がけ、地域全体で空き家問題に向き合うことが、安心なまちづくりにつながります。行政も引き続き、啓発や支援策の充実を図り、空き家の適正管理と有効活用に取り組んでいくことが重要です。
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